新海誠監督が新作を発表したので、新海誠作品について振り返ってみる【天気の子】

エッセイ
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秒速5センチメートルと私

私が初めて見た新海誠監督の作品は、秒速5センチメートルでした。

大学の学部の友達と広島旅行に行ったとき、夜に何か映画を見ようということで、秒速5センチメートルとサイレンを借りました。まずサイレンを見たのですが、案外夜遅くになっていたので、寝る流れになりました。

ただ、私はそのとき、どうしても秒速5センチメートルが気になっていました。巷で聞くところによると、鑑賞すると鬱になるだとか、女性からしたら主人公を見ていてイライラするだとか、何かと話題に上がる作品だったからです。

皆が寝たあと、こっそり一人で秒速5センチメートルを再生しました。そして、気が付くと朝になっていました。見たのも1回だけでなく、3回以上繰り返してみていました。

旅行から帰った後、小説版と漫画版を読み、よりその世界を知ろうとしましたし、(本当はよくないんですが)ニコニコ動画に上がっていた本編を何十回と繰り返してみていました。

この状態を見て、「そんなに秒速5センチメートルは面白いのか!」と思われるかもしれませんが、私自身、秒速5センチメートルを面白いを思っているわけではありません。

じゃあ、なんでそんなに何回も見るのかというと、正直、明確に言語化できません。

映画を見ていると、自分の経験に染み入るような感じがするんです。直接的には同じような経験はしていなくても、主人公の行動や、物事に対する構え方に、なんとなく自分を見ているんだと思います。

よく、秒速5センチメートルはひどいバッドエンドだと言われていますが、私はハッピーエンドの話だと思っています。思春期のころに抱いていた、理想の恋愛だとか、理想の自分だとか独りよがりなものを、最後に吹っ切る、というラストだと解釈しました。

そんな主人公の姿を見て、自分も頑張ろうと言い聞かせるように、何度も繰り返し見ていたんだと思います。

君の名は。と私

何年か経って私も就職し、社会人になった後、君の名は。の公開が発表されました。

初めは特に気にしていなかったのですが、これまでの新海誠さんの作品と比べて圧倒的にプロモーションされており、「こんなに力の入った作品はいったいどんな出来なんだ……。そもそも、新海誠の映画が一般受けするのか……?」と、とても気になって見に行くことにしました。

君の名は。を見に行く前の時点で、ほしのこえ、言の葉の庭を鑑賞済みの状態でした。どちらもいい作品で、特に言の葉の庭は鑑賞後も長らく余韻に浸った作品でした。新海誠作品の中でも、「初めに何を見たらいい?」と聞かれたらお勧めするような、作者の個性の発揮と完成度の合わさった作品です。

ただ、私の中での一番は、秒速5センチメートルに変わりありませんでした。一番というより、自分を構成するうちの一要素といってもいいくらいです。

今度の新作はいったいどんな出来なのか、この目で見て確かめようと、公開日の次の日に行きました。

鑑賞中に何度も思ったのが、「プロの仕事、すごい……」というものでした。

今までの作品は、「作品」という側面が第一優先に置かれているように感じています。監督個人の思いが込められ、自分にとっていいと思うものを作ろう、という感じがひしひしと伝わってきていました。

君の名は。では、そういった主張は抑えられ、映画の画面いっぱい、音の隅々を使って観客を楽しませよう!という意志がほとばしっていました。

それを見て、(失礼な言い方になってしまうのですが)「新海監督、大人になったんだな……」と、遠いところに行ったように感じられたのです。

ちょうどその公演は新海誠監督ご本人がいらっしゃって、質疑応答の時間がありました。質問者の一人が、「なぜ今回明確なハッピーエンドなのか?」と聞いたところ、「地震がきっかけで、お話の中では見る人を勇気づけられるように、ハッピーエンドの話にしようと思うようになりました」と答えいていました。

新海誠監督は、君の名は。からはより観客志向で映画を作っている、ということなのでしょう。

それから、映画館で2回見、Blu-rayも買って何度か見ましたが、秒速5センチメートルのように自分の物語として消化することはできませんでした。秒速5センチメートルは、観客志向でないからこそ、自分のものとしてゆっくり消化することができたのです。

天気の子と新海誠監督と私

今回、新海監督は、以下のように新作公開会見で以下のように言っています。

「“ど”エンタテインメント。笑えるし、泣けるし、ワクワクするし、知的好奇心も刺激されると思います。劇場に来た人に『面白かった!』と言ってもらえる作品をスタッフ全員で目指してます」

きっと、天気の子も、君の名は。に負けない、観客志向の非常に面白い作品になるでしょう。

でも、秒速5センチメートルのような、自分の物語として消化されるような作品ではない、ということが同時にわかりました。

こんなことを言うとアホかと思われそうなんですが、君の名は。で大成功をおさめた監督のその後そのものが物語なのでは、と思うようになっています。

好きなことを一生懸命追って、成功を積み重ねる。その先に、自分自身のやりたいことをかなえながらも、より多くの人に楽しんでもらう道を見つけ出す。

君の名は。に対して好みではないとわかりつつ、君の名は。を通して、そんな物語を(勝手に)感じとったからこそ、何度も見ているんだと思います。

きっと、天気の子も、私にとってそんな作品になるのではないかな、と思います。

君の名は。の大ヒットは、新海監督本人にとっても予想外のものであったはずです。周囲からのプレッシャー、期待を受けながらも、観てくれる人たちのために魂を込める、そんな監督の姿勢が現れた作品になるでしょう。

新海監督、心から応援しています。

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